点検業務におけるドローンの活用は、機体性能の向上やさまざま実証実験によるノウハウの蓄積など、日々進んでいますが、本格的な活用ににはまだ課題があるのが現状です。

とはいえ、点検分野におけるドローンの将来性は、他の分野と比較しても非常に高い伸びが予測されています。本記事では、そんなドローンによる点検業務に関する、現状の課題と今後の展望についてお伝えします。

この記事は2022.02.28時点の情報です。

「ドローンでの点検」ができないこと〜性能・技術の課題〜

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国により推進されるインフラなどの点検分野へのドローンの活用。しかしそれは「まだこれから」という段階。点検対象によりドローンの導入具合はさまざまで、現在はまだ、人や従来の手法に置き換えられるほど万能とは言えません。

ここでは、そんなドローンによる点検の現状の課題をご紹介します。国がロードマップで示すようなドローンが当たり前に使われる社会の実現には、これらの課題解決が必須と言えるでしょう。

参考(外部リンク):空の産業革命に向けたロードマップ2021/首相官邸

点検の精度

ドローンを点検業務に導入することで実現したいのは「既存手法と同等、ゆくゆくはそれ以上の精度を出すこと」。

一部の点検業務では、ドローンにより取得できるデータの質が上がったものもありますが、多くの分野ではまだ質や精度の課題があります。そのため、さまざまな性能の機材やソフトウェアを用いてあらゆる環境下での実証実験を重ねる必要があります。

撮影できない箇所の存在

鉄塔の裏側や橋梁の隙間、プラントや工場、船舶の内部などの「暗所」「狭所」があげられます。暗所なら照度の高いライトを搭載した機体、狭所なら小型の機体やカメラ搭載位置・ジンバル可動域の工夫や改善、自律飛行で解決できるケースもあります。

しかし、対応できる暗さや狭さの度合いは機材によってさまざま。飛行の問題をクリアした場合でも「質の高いデータが取得できるか?」については、まだこれからあらゆる環境下での実証実験を重ねる必要のある段階です。

耐候性

外壁点検の需要の高い都市部の場合ならビル風、風力発電の風車や鉄塔の多い山間部は急な天気の変化があります。気温が高い場合にはドローンが熱暴走を起こす可能性も。多少の雨風に適応する機体は販売されていますが、使用できるシーンは限定的。

毎日の点検業務に使うならあらゆる環境に適応するよりタフな機体設計が求められるため、性能の向上が重要です。

電波・磁気への耐性

高圧送電線の放電、鉄道や工場の電波などの影響で電波干渉を受けたり、コンパスエラーが起きる場合があります。こちらも耐候性同様に、干渉を受けにくい仕組みの開発など改善されるべき要素と言えます。

「作業」はできない

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事前スクリーニングという点で、ドローンはすでに有効です。しかし人が目視や打診で点検する際に同時に行える応急処置や補修作業は、ドローンにはできません。また、屋根や外壁の点検で行われる部材の下を確認する作業もドローンはできないため、結局は人による作業が必要。いずれはこのような作業も、ドローンなどの新技術で効率化することが理想です。

剥がれた塗装への簡易な吹付作業には農薬散布ドローンの技術を活用するなど、既存技術の改良で解決するものもあるかもしれません。

騒音

ドローンの飛行音はおよそ80デシベルと言われ、これは鉄道の線路脇や飛行機の機内と同等です。騒音を抑えるプロペラを開発、販売するメーカーもありますが、ドローンの導入を本格化するにはより静音であることが求められるでしょう。

セキュリティ

ドローンは外部と情報通信をしながら飛行するため、情報セキュリティリスクとは常に隣り合わせ。映像などの情報送信に不正に介入されたり、操縦権を奪われるリスクも。国などの機密性の高い施設でドローンを飛行する場合は専用に開発した機体を用いる必要があるなど、コスト課題や効率の低下が生じます。

非GPS環境

現在、ほとんどのドローンはGPSで自己位置を把握したり維持をしています。そのため、壁や屋根のある屋内のような空間はGPSを受信しづらく、安定した飛行ができません。

点検では屋内や構造物の下での飛行が必要なため、GPS以外のもので位置の把握を行うドローンが求められます。たとえばSLAM搭載のドローンはすでに販売もされていますが、その選択肢はまだ多くありません。点検業務への導入にはさらなる性能の向上や、さまざまなニーズに応える商品展開が求められるでしょう。

完全な「自律」

自律飛行(自動飛行)が可能なドローンはすでに点検にも使用されていますが、まだ人の介入が必要です。離陸やバッテリーの交換、充電などにおいて人の手が必要な限り、ヒューマンエラーの可能性は残ります。ドローンが完全に人に代わる社会の実現には、離着陸や充電、機体の管理まで人の手が要らない「自律型」である必要があるでしょう。

「ドローンでの点検」ができないこと〜法や制度の課題〜

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安全基準・マニュアルの整備

2021年時点ではドローンの操縦資格は民間の資格のみ。安全基準も国が定めたものに加え、民間団体が自主的に作成し発表するなど、さまざまなものが存在する状態です。今後、有人地帯での目視外飛行も解禁されていくことを念頭におくと、民間団体の豊富な経験に基づく安全基準も参考にした上で、国が基準を設定し統制することが不可欠でしょう。

参考(外部リンク):空の産業革命に向けたロードマップ2021/首相官邸

人による検査が義務付けられた点検の見直し

目視や打診など、人が直接で検査することが法律で規定されている対象物の点検は、当然ながらドローンに代替することはできません。しかし本質的には、人が行うには危険な作業こそドローンなどの新技術へ代替したいもの。検証を重ねた上で本格導入を行い、義務・制限も適切に緩和していくべきと言えます。

最近では少しずつ規則の改正が進み、ドローンなどの新技術で代替できる業務も増えてきていますが、まだ限定的です。

参考(外部リンク):高圧ガス保安法及び関係政省令等の運用及び解釈について(内規)の一部改正について(法定検査における新技術の活用が可能であることの明確化)/経済産業省

機材の整備・管理に関する制度

空を飛ぶ以上、ドローンの墜落などの事故リスクは0ではありません。2022年度をめどに国がすすめる「レベル4(有人地帯での目視外飛行)」では特に、事故時のリスクが大きいため今まで以上の安全対策が求められます。

そんな中、車のナンバープレートのように国へ機体を登録し、発行された番号を搭載する制度が2021年末よりスタート。2022年6月20日より義務化されます。詳細は以下の記事を参考にしてください。

「ドローンでの点検」ができること

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現在ドローンによる点検でできることは「自動航行」による「 データ取得(画像撮影)」。そしてそれを活用した、本格的な点検の前の「事前調査(スクリーニング)」です。

このほか、以下はすべての種類の点検に共通する「ドローン導入によるメリット」です。

  • 業務の効率化
  • コスト削減
  • 安全性の向上

詳細は以下の記事を参考にしてください。

ドローン点検の展望と、官民ですすむ取り組み

まだ課題も残るドローンによる点検業務ですが、近い将来、従来の手法に代わるものとして実用化するのでしょうか。ここではそんなドローンによる点検の将来の展望をお伝えします。

上で紹介したように、課題のほとんどは技術または法による運用規制に関するものでした。しかしそれらは日々、改良や整備に向けた動きが進んでいます。半年、1年後には今はない技術や法令が存在し、今の課題を解決しているかもしれません。

技術や法整備で日々進む、ドローン点検

有人地帯での目視外飛行で進む、ドローンの活用

2021年時点ではまだ、目視外飛行は航空法で規制されています。しかし経済産業省の「空の産業革命に向けたロードマップ」は、2022年以降「有人地帯での目視外飛行」を前提に計画され、国がその実現に向けて法や制度を整備していくということを表しています。

これにより、都市部の構造物を目視外飛行で点検すること可能となり、点検業務の効率化やドローンでの配送のサービス拡大など、一気に加速するでしょう。

参考(外部リンク):空の産業革命に向けたロードマップ2021/首相官邸

空の交通整備でもっと安全に

UTMとは「UAS(Unmanned Aerial System) Traffic Management」の略で、日本語で「無人航空機管制」と訳されます。空域を飛行するドローンを一元管理・調整を行い、安全かつ効率的に飛行できるようにするものです。ドローンが点検や配送などに当たり前に使われる社会には、空の交通整備はマストでしょう。国内でもすでに複数の企業が開発、実証実験を進めています。

参考(外部リンク):

5Gで安定的かつリアルタイムのデータ共有が可能に?

「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」という特長を持つ5Gを使用した際のドローン遠隔制御の遅延は、LTEの半分ほどに短縮されるという実験結果もあります。

5Gなら広範囲でのリモート操縦が実現するほか、高画質な映像などのデータも瞬時に送信できるでしょう。点検中の映像を離れた場所の関係者に瞬時に共有し、リアルタイムで報告や指示を行えることも想定できます。5Gの普及とともにドローンの産業への活用も加速してのは確実でしょう。

参考(外部リンク):5Gで変わるドローンの世界/日経ビジネス

完全な自律飛行の実現で生産性アップ

課題である「完全な自律飛行の実現」ですが、すでにその実現が近いことを感じる新機体や実証実験結果も出てきています。まだ完全な導入段階ではなく課題も残りますが、実導入がイメージできるレベルのものも多く、今後に期待できそうです。

参考(外部リンク):

性能アップに期待大!”点検”特化型のドローンも続々登場

ドローンによる点検をより安全に遂行し精度を上げるには、機体やペイロードの性能が上がることも重要です。ドローンの飛行時間は同じシリーズでも数年で2倍以上になったものもあるほど、ドローンの進化は凄まじいスピードで進んでいます。

今後さらに飛行時間が長くなったり、搭載できるペイロードの重さや種類を増やすなど、あらゆる業務に対応できる機体の開発は現在、海外はもちろん国内でも続けられています。特に最近はセキュリティの観点から国産ドローンの進化に期待が高まっており、今後十分な性能の機体が発売されれば行政関連への業務導入も加速するでしょう。

以下は点検業務のために機体の仕様やアプリ、ペイロードなどが開発された製品の一例です。

  • いずれも外部リンク
◼︎ 防爆ドローン
◼︎ 橋梁点検ドローン
◼︎ 送電線点検ドローン

国や企業の「ドローンによる点検」実導入にむけた動き

ここまでお伝えしましたように、ドローンの点検への導入はまだまだ課題は多いものの、5Gや自律飛行など新しい技術により解決できるものも多くあります。そのため、すでに国や大手企業では実導入を目指したより実践的な動きも見られます。

ここでは、そんなドローンの点検への導入を目的に実施された取り組み事例の一部をご紹介します。

  • いずれも外部リンク

◼︎ 道路

全国の道路メンテナンスに関する取り組み事例/ 国土交通省 関東地方整備局 関東技術事務所

  • NEXCO中日本 山岳地域の橋梁事前調査 P31
  • 青森県道路メンテナンス会議(青森河川国道)橋梁  P43

◼︎ プラント

プラントにおけるドローン活用事例集/石油コンビナート等災害防止3省連絡会議(総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省)

◼︎ 建物

ドローンを活用した建物点検調査技術の開発について/ 国立研究開発法人 建築研究所

◼︎ 基地局など

ドローンによる社会インフラの保全サービスを2019年春から提供/ソフトバンク株式会社

◼︎ 線路

スマートドローンを活用した線路設備点検の効率化に関する実証実験を実施/KDDI株式会社

◼︎ 送電線

ドローンの目視外飛行で送電線点検。グリッドスカイウェイが秩父で実証/電気新聞

このほか、点検を含む建設業全般ではさまざまな導入事例があります。詳しくは以下の記事も参考にしてください。

まとめ

島国で山地の多い日本の公共インフラの数は多く、たとえば橋梁は日本の25倍の国土を有するアメリカより多いほどです。今後、人員や予算が不足する中で老朽化してゆくインフラの維持管理するという課題がありますが、そのソリューションとして期待される「ドローンでの点検」の市場は、今後大きな成長が期待されています。

まだ課題は残るものの、ドローンにより業務の効率化、コスト削減、安全性の向上を叶えられる将来はすぐそこまで来ています。人に代わりに働くドローンの存在が、社会全体へのドローンの認知を促し、ドローン自体も社会に欠かせないインフラとして更なる普及へと繋がっていくことでしょう。

参考記事