ドローンの導入が急速に進む建設業。

導入が進んだ背景には、何があるのでしょうか。また、どんな業務で導入ができて、導入にはどのような知識や資格、許可や機材が必要なのでしょうか。

この記事では、建設業におけるドローンの導入を検討中の方、導入したけど更なる活用範囲の拡大や精度の向上を目指す方むけに、活用事例や導入方法、法律、資格や講習の必要性、機材の選び方などをまとめてご紹介します。

この記事は2022.01.26時点の情報です。

なぜ、建設業でドローン活用が進んでる?背景と導入事例

”i-Construction”の推進

i-Constructionとは

国土交通省が進める「建設現場におけるICT技術活用の取組み」です。

i-Constructionの背景

2015年時点で建設業の就業者は、その約34%が55歳以上と全業界と比較して5%高く、反対に29歳以下は約11%と全業界より5%少ない状態でした。55歳以上の就業者は10年以内に離職する可能性が高いため、建設業は高齢化などの理由による人手不足がとても深刻です。

そんな課題に対する打ち手として、賃金水準の向上や休日の拡大等による「働き方改革」とともに、「生産性向上」のための取組みとして推進されたのが”i-Construction”。2016年9月開催の第1回未来投資会議、安倍総理が2025年までに建設現場の生産性を20%向上させるよう関係省庁へ指示を出したことが、その本格的な始まりです。

参考(外部リンク):


i-constructionの3つの柱

3つの柱のイメージ
出典:EskemarPixaday

i-constructionによる取り組みの、3つの柱は以下の通りです。

  1. ICT の全面的な活用(ICT 土工)
    あらゆる建設生産プロセスに3次元データを一貫して使用するICTを全面的に導入することで、安全性・生産性の向上を図る。
  2. 全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)
    • 「全体最適」の考え方を導入。設計から維持管理を含めるプロセス全体の最適化を目指し、サプライチェ
      ーンの効率化、生産性向上を図る。
    • 部材の規格(サイズ等)を標準化し、資機材の転用等によるコスト削減、生産性の向上を図る。
  3. 施工時期の平準化
    約1.8 倍(2014年度)も差がある閑散期と繁忙期の工事量を、施工時期を平準化することで安定化させる。これにより経営の健全化、労働者の処遇改善、稼働率の向上による建設企業の機材保有の促進を図る。

中でも1の「ICT の全面的な活用(ICT 土工)」で「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」が整備されたこともあり、建設業でのドローンの活用が急速に進んでいます。

参考(外部リンク):i-Construction~建設現場の生産性革命~/国土交通省

建設業におけるドローンの活用例一覧

測量

測量のイメージ
出典:PixadaySwichan

工事現場の正確な地形を把握するために必須な測量業務。これまではトータルステーションなどを用いて人の手で行うか、航空機を使用するのが一般的でした。しかし費用負担の大きさや、工数がかかること、人材不足などの課題もありました。

ドローンを測量に導入することで従来手法よりも低コストで、大幅な作業日数の短縮・必要人員の削減が実現します。

国土交通省の「i-Constructionの推進について」では、ドローンと従来の方法を比較する検証の結果として「約30日(80%)の工程短縮」が報告されています。従来の方法では3人体制で行っていたものを2人体制で実施することができた上で、日数も大幅に減らすことができ「1/4に省力化」したという事例も取上げられています。

さらにドローン(UAV)測量は、測量データを3次元の図面として活用することができる点でも注目されています。

ドローン測量の種類

ドローン測量には、写真測量とレーザー測量の2つの種類があります。現在のところ、比較的安価で小型な機体でも行える写真測量が主流。

一方のレーザー測量は、照射したレーザーの跳ね返りで距離を取得、位置情報と組み合わせて正確なデータを取得できるというもの。木が生い茂った場所など地面まで写真の撮影できない環境など、レーザー測量なら対応できる範囲も広がります。以前までその大きさや重量、高い導入コストが課題でしたが最近は小型化が進み、価格も安価になったため、ドローンによるレーザー測量への注目も高まっています。

ドローン(UAV)測量の流れ
  1. 飛行経路作成
  2. GCP(対空標識)の設置
  3. ドローンでのデータ取得(自動航行・自動撮影)
  4. データ解析(専用ソフト)
ドローン測量の導入事例

株式会社大林組は、2012年に国交省によって提言された建設業務の効率化を目的とした取り組みである「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」に積極的に取り組む企業のひとつ。

ドローン測量についても、ドローンでの空撮データと3D点群処理システムを使用することで、3次元CADなしで土量計算を行っています。さらにその過程で得られる「オルソ画像」も、CAD図面と重ねることで現場の進捗状況の確認に役立てています。

「これまでの土量計算は地上を移動して測量する作業が必要だったため4人で7日間かかっていました。それがUAVによる空撮写真から3D点群データを作り、そのデータを福井コンピュータのTREND-POINTに読み込んで土量計算を行う方法に変えたところ、2人で1日に効率化できました。つまり28人工が2人工に大幅削減されたわけです」と大林組土木本部本部長室 情報企画課長の杉浦伸哉氏は語ります。

出典:3次元CADを使わずにドローン(UAV)による空撮から土量計算まで大林組の造成現場を効率化したTREND-POINT/CONST-MAG by FUKUI COMPUTER

施工管理(定点観測)

定点観測のイメージ
出典:Scott BlakeUnsplash

ダムやトンネルなどの土木工事現場や、マンションや高層ビル等の建築工事現場では、社内外への共有のために現場の状態を撮影する必要がありますね。従来は足場を設置したり近くの高い建物から撮影するという方法をとっていたため、コストがかかること撮影できる高さや角度が限定されるという課題がありました。

ドローンの場合には低コストかつ、飛行経路をプログラムできるため、毎回同じ位置と角度でデータを取得し保存ができます。さらにドローンなら、人が行くには危険な場所からの撮影も可能。取得できるデータの幅が広がります。

また現在は、DIB(Drone in a Box)というものの開発も急速に進んでいます。これはドローンが自動で離発着し、帰還後の充電までもを自動で行う箱(ボックス)。将来的には遠隔操作などの実装も見込まれ、操縦士が現場に行かなくても、ドローンが自動的かつ定期的に工事現場を巡回し撮影することが予想されています。

現在のドローン導入では当たり前の「操縦士が現場に行く」ということで発生する、撮影頻度や場所、用途が限定されるという課題も、DIBの性能アップにより解決する未来が見えてきていると言えます。

ドローンによる施工管理の流れ
  1. 飛行経路作成
  2. ドローンでのデータ取得(自動航行・自動撮影)
  3. クラウドなどでの管理・共有
ドローンによる施工管理の導入事例

清水建設株式会社では、ドローンで計測されたインフラ構造物の損傷情報を反映した「高精度3次元モデル」を作るためのシステムを、米国カーネギーメロン大学と共同開発するなど、建設業において幅広い分野におけるドローン導入を進めています。

そんな取り組みのひとつとしてドローンによる施工管理(定点観測)も、業界の中でも早い2018年から導入。大規模土木工事に導入しています。

ドローンなら現場のすべてを『保存』できる
…工事の現場って日々いろいろと状況が変化するので、計画通りにいかないことも多いです。…地面の上から見ているとわからないことでも、上空から見ると全部がわかる。…作業員がどこにいるのかとか、どの部分の作業が終わっていないとか、細かいところまですべて『今を保存』できます。プログラムで同じ位置、同じ高さからの撮影ができるので取り逃しもないですし。

出典:アフリカで清水建設がドローン導入。現場の定点観測で業務効率が200%アップ!? DroneRoofer/株式会社CLUE

点検

点検のイメージ
出典:さんぽ49photoAC

橋梁やダムなどのインフラ構造物やプラントやビル、太陽光パネルなど、ドローン点検の対象物は多岐にわたります。土木分野と比べると、点検分野でのドローン活用はまだ”これから”のフェーズであることは否めません。

しかし、インプレス総合研究所の「ドローンビジネス調査報告書2020」によると、点検分野は2019年から2025年までの6年間で115億円から1625億円の14.1倍もの市場規模に成長すると予測さています。このようにドローンによる点検は、他の分野と比較して最も成長する分野と見られています。

その理由のひとつとして、日本のインフラの老朽化問題があります。日本では高度経済成長期にインフラが集中的に建設されました。たとえば道路橋の場合、2023年には39%、2033年には63%が建設から50年以上が経過することに。そのため、点検の効率化が急がれますが、高所作業車や足場を設置して人が目視や打診で点検する手法では、人手も足りない上に日数も費用もかかってしまいます。その解決策として、ドローンでの効率的な点検がいま、注目されています。

現在のところ、ドローンによる画像取得により「構造物の劣化状況の判定が完結するか」については、その精度などに対するさまざまな議論があります。そのため、従来の点検手法の完全な代替としては上述の通り、”まだこれから”のフェーズ。

しかし、大きな構造物の目視点検において「事前にドローンでデータを取得して劣化の疑いのある箇所を絞り、その箇所のみを目視で判定する」などと、従来の方法と組み合わせることで「効率化」も「点検の質の担保」も実現させることができるでしょう。またすでに、山間部のダムなど人が立ち入ることができない場所については、ドローンが有用であるとされています。

参考(外部リンク):

ドローンによる点検の流れ
  1. 飛行経路作成
  2. ドローンでのデータ取得(自動または手動)※
  3. データ解析(専用ソフト)
  4. 報告書作成、提出
  • 可視光カメラデータ、赤外線カメラデータ、各種パラメータなど
ドローンによる点検の導入事例

大日本コンサルタント株式会社では、2018年4月に独自のドローン「マルコ™」の開発が完了。これは、橋梁点検の分野でニーズに合致させるべく、橋梁の設計施工に加え、次世代型ロボットの開発にも強みを持つ「川田テクノロジーズ株式会社」が共同。「国立研究開発法人産業技術総合研究所」の支援を受けて開発したものです。

その後も開発を継続し、2019年2月に国土交通省の「新技術利用のガイドライン(案)」の「点検支援技術性能カタログ(案)※」に登録。点検業務での利用が始まっています。

  • 点検支援技術性能カタログ:定期点検への新技術の積極的な活用を図るため、点検に活用可能な技術について、その性能値等をとりまとめたもの。

参考(外部リンク):

建設業にドローンを導入するには?〜講習・免許・法律〜

出典:RobfotoPixaday

建設業へのドローン導入に、スクールは必要か?

ドローンの業務への導入にあたっては、飛行場所や方法に関する法や規制、安全な運用を学ぶためにスクールに通う人や、講師を手配し従業員に受講させる企業がほとんど。業務での使用であれば、より一層の知識や技能が必要になりますので適した講習を受講するべきでしょう。

講習団体(ドローンスクール)の数は2021年12月時点で、航空局のHPに掲載されているだけでも1,200ほど。その多くはホビー向けで個人を受講者として想定しており、基礎的な知識や技能を身につけることがゴール。

一方、業務でドローンを使用したい場合は基礎はもちろん、「必要なデータを使用できる品質で取得する」あるいは「取得したデータを利用(解析)する」ことがゴールです。業務へドローンを導入するなら、基本の講習はもちろん、より実践的な講習がマストでしょう。一部の講習団体では「測量講習」「◯◯点検講習」など業務に特化したコースを展開。このような講習は、実際の現場を想定した飛行や撮影、取得データをソフトで解析するなど一連の流れを学ぶことができます。

講習内容は自社のドローンの知識・技術レベル、現場環境に合わせたカスタマイズができる場合も。まずは業務向けの講習を行う団体に相談してみるとよいでしょう。またもちろん、受講後にも練習や実践を重ねて技術を磨くことも大切です。

ドローンの免許制度は、これからはじまる?

2021年時点では、ドローン操縦に資格は必要ではありません。しかし、都市部でのドローンによる配送などを想定したレベル4(有人地帯での目視外飛行)が2022年に解禁されることを目処に、国土交通省は一部飛行方法への免許制の導入を検討しています。

以下の資料によると「ドローンの免許」は、国が試験(学科と実地)を実施し技能証明を行う制度を創設することが想定されています。免許の種類は1等2等の2つに区分された上で、機体の種類や飛行方法で限定されます。

現在のところ、業務用とホビー用途での区分については言及されていませんが、まだ制度はこれから作られる段階。ドローンを使用するなら、法律や免許に関する最新の情報は必ず早めに確認するようにしましょう。

参考:無人航空機のレベル4の実現のための新たな制度の方向性について/国土交通省

建設業に関わるドローンの法令は?許可は必要?

法律のイメージ
出典:succoPixaday

ドローンに関わる法令

ドローンを運用する上で関わってくる法律や条例などの法令は、飛行方法や場所により以下のようなさまざまなものがあります。

  • 航空法・航空法施行規則
  • 小型無人機等飛行禁止法
  • 電波法
  • 民法
  • 道路交通法
  • プライバシー権・肖像権・軽犯罪法・個人情報保護法
  • 重要文化財保護法
  • 海岸法・河川法 
  • 条例(地方公共団体)・都市公園法・自然公園法

ほか

場所や状況で異なる、適用される法令や許可の申請

ドローンに関わる法令は上記のようにたくさんあります。その現場ごとに該当する法令は異なり、申請の方法や申請先は大きく異なります。

河川なら河川事務所、海上なら港湾局や海上保安庁、第三者の土地建物の上空なら所有者の許可が必要な場合もあります。離着陸や監視などの目的で公道を使用するなら道路使用許可、国有林での飛行なら森林管理署への申請が必要です。

いずれの許可承認も、取得には数週間以上かかることがほとんど。そのため業務を行う前にはゆとりを持って、現場の特徴を元に、事前に関連する法令と申請方法を調べておきましょう。

また、ドローンが関わる法令は車などの交通ルールとは違い、一般的には知られていません。適切な許可などを得て飛行させていても、不安に感じた第三者が通報し、現場に警察が駆けつけることも。その場合、現場の業務がストップし進行に影響がでてしまうことも。

事前に現場を管轄する警察署に飛行予定の連絡を入れたり、許可承認を得たことのわかる書類を持参するとよいでしょう。

参考:ドローンの「航空法」による規制と許可承認申請を解説

建設業でのドローン導入、「目的別」のおすすめ機材は?

出典:StockSnapPixaday

建設業でドローンを導入する場合、その目的や求める精度・データの種類などにより選ぶべきドローンやカメラは異なります。さらに、業務で使用する場合は事故や不具合に備えて、メインの機体とは別に予備機を用意し、合計2台以上導入することが一般的です。

また、現在のところほとんどのドローンの飛行時間はバッテリー1本で、20〜30分ほど(機体により2本以上で飛行する仕様のものも)。そのため、業務で使用するなら予備のバッテリーは複数個用意する必要があります。

「測量業務」におすすめなドローン

写真測量:DJI社製 Phantom 4 RTK

空撮用として人気の高かったPhantom 4シリーズにRTKを搭載。小型で扱いやすく、これまでより高い精度が期待できます。

参考(外部リンク):Phantom 4 RTK/DJI JAPAN公式HP

レーザー測量:DJI社製 Matrice 300 RTK

DJIのZenmuse L1はもちろん、ほかのメーカーのLiDARも搭載することができます。RTK搭載、最大飛行時間55分、6方向の障害物検知、IP45の防水性など従来の機体より格段にアップデートされ、建設業をはじめとしたあらゆる分野で活用できる機体。

参考(外部リンク):Matrice 300 RTK/DJI JAPAN公式HP

「施工管理(定点観測)業務」におすすめなドローン

施工管理(定点観測)にドローンを導入する場合、環境課題の有無により選ぶべき機体が異なります。

環境課題とは
  • GPSが十分に受信できない環境:屋内など
  • コンパスエラーが発生する環境(磁気干渉を受ける可能性のある場所):建設現場や鉄鋼建築物など
  • 障害物の多い環境:建物や木々など
環境課題なしの場合:DJI社製 Mavic シリーズ

低価格で小型機ながら安定した飛行性能と、十分なカメラ性能を有する機体です。

参考(外部リンク):Mavic/DJI JAPAN公式HP

環境課題ありの場合:Skydio社製 Skydio 2 + Skydio Dock

「ぶつからないドローン」と言われるように、障害物を回避できるVisual SLAM搭載、米国製の小型機。環境課題があっても、GPSやコンパスに頼らない飛行を実現します。

参考(外部リンク):Skydio 2Skydio DockSkydio公式HP

「点検業務」におすすめなドローン

屋外の場合:DJI社製 Matrice 300 RTK + Zenmuse H20T

RTK搭載、最大飛行時間55分、6方向の障害物検知、IP45の防水性など従来の機体より格段にアップデートされ、建設業をはじめとしたあらゆる分野で活用できる機体。H20Tはワイド、ズーム、赤外線、レーザー距離計の一体型。

参考(外部リンク):Matrice 300 RTKZenmuse H20T/DJI JAPAN公式HP

屋内の場合:Skydio社製 Skydio 2

「ぶつからないドローン」と言われるように障害物を回避できるVisual SLAM搭載、米国製の小型機。工場やプラント内などの環境課題がある環境でも、GPSやコンパスに頼らない飛行を実現します。

参考(外部リンク):Skydio 2/Skydio公式HP

まとめ

すでに活用が進んでいる建設業でのドローン活用。事例も沢山ありますので、まだ導入されていない方も同じ業界の事例を見てみると具体的なイメージがわくかもしれません。

ドローンは機体やカメラの性能も関連する法令も、まだまだ変化をし続けている業界。導入後も、最新情報をチェックしておくことが大切です。

参考記事(外部リンク)