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SLAM(スラム)とは?
SLAMを一言で説明すると「自分自身の位置と、その周辺の環境を同時に把握する技術」です。SLAMが搭載された移動体は未知の環境であっても自身の位置を推定(Localization)し、さらにその環境の地図を作成(Mapping)できます。
お掃除ロボットもこの技術を活用して走行しながら部屋の地図を作り、同じ場所を何度も掃除することのない効率的な掃除を実現しています。
SLAMの種類
SLAMは周囲の情報(三次元情報)を取得する方法の違いで、主に以下の2種類に分けられます。
Visual SLAM
カメラのイメージセンサーからの情報を用いたSLAM。
- Visual SLAMを搭載した製品の一例:
- Skydio社 全てのドローン
- Panasonic社 RULO MC-RS800
LiDAR SLAM
LiDAR (Light Detection and Ranging)というレーザーセンサー(距離センサー)を主に使用したSLAM。
- LiDAR SLAMを搭載した製品の一例:
Visual SLAMの原理・仕組み
まずは、自律飛行で話題のSkydio社などのドローンにも用いられる「Visual SLAM」について説明します。
Visual SLAMはカメラで取得した画像から、周囲の環境の3次元構造を計算し環境地図を作成します。その地図に対し、「自身がどのくらい動いたか」によって位置を推定します。
画像から情報を算出する方法は大きく分けると「画像の特徴点を使う方法」と「画像全体の輝度を使う方法」の2つありますが、前者が一般的です。この方法では、カメラが取得した画像1枚1枚から特徴点を算出し、それらの関連性を利用しています。
LiDAR SLAMの原理・仕組み
「LiDAR SLAM」はレーザー光を使って測定する仕組みです。レーザー光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、高い精度で物体までの距離を測定します。
出力値は2D (X、Y座標)や3D (X、Y、Z座標)の点群データ。点群同士をマッチングすることで、自身の移動量を推定して自分自身の位置を推定しています。
2つのSLAMの比較とメリット&デメリット
Visual SLAMとLiDAR SLAMの比較
Visual SLAMの方が低価格ではあるものの、精度では一般的にLiDAR SLAMが勝ります。
名称 | Visual SLAM | LiDAR SLAM |
主なセンサ | カメラ | LiDAR |
精度 | 中 | 高 |
価格 | 低 | 高 |
Visual SLAMのメリット
安価
Lidar SLAMと比較し安価なため、導入コストを抑えることができます。
特徴の少ない環境にも強い
Visual SLAMは視覚情報をもとに動作するため、LiDAR SLAMでは点群データの取得がむずかしい構造特徴が乏しい場所でも自分自身の位置を推定することができます。
Visual SLAMのデメリット
暗い場所
暗い場所では画像から得られる情報が激減します。そのため、画像から有用な特徴点を算出することも難しくなります。
周囲に動く物体があるとき
Visual SLAMのほとんどは、周囲の環境が動かないことを仮定しています。そのため、周囲に移動物体がたくさんあると「自分と環境の、どちらが動いているのか」を判別できなくなってしまいます。
LiDAR SLAMのメリット
高精度
LiDARはカメラと比較して遠距離での測距精度に優れ、より高精度なマップを生成することができます。
明るさに依存しない
レーザー照射の跳ね返りの時間を計算して特徴点を抽出するため、周囲の明るさに関係なく、データの取得が可能です。
LiDAR SLAMのデメリット
点群同士のマッチングがむずかしい
点群は画像などに比べて密度が粗いため、点群同士のマッチングが十分に行えない場合があります。例えば周辺に検知対象となる構造特徴に乏しい場所(平原など)では難しく、自分自身の位置を推定がうまくいかない場合があります。
高価
Visual SLAMで使用するカメラと比較し、LiDAR SLAMに使用するLiDARは高価。ドローンでもスマートフォンでも、Visual SLAM搭載の製品よりも1桁高い価格設定のものがほとんどです。
SLAMで何ができる?活用が期待される分野とは
すでに説明しているように、身近な活用例としてはロボット掃除機が挙げられます。清掃をする部屋の環境の地図と自分自身の位置の推定を行うことにより、移動経路の最適化とそれによる効率化、節電、清掃力の向上が図られています。
そのほかにもSLAMはすでにいくつかの分野で活用され、また今後もさらなる活用が期待されています。
車やドローンなどの自動運転、自動飛行での活用
現在、SLAM搭載のドローンはすでに多く販売されています。従来のドローンはGPS(GNSSの一種)で測位しますが、屋内などのGPSをうまく受信できない環境下では測位できません。そのため、屋内や橋梁の下などでは自動飛行ができなかったり、熟練した操縦士による手動操作が求められています。
一方、SkydioなどのSLAM搭載のドローンは非GPS環境でも問題ありません。SLAMにより環境地図を作成し、その中での自分自身の位置を推定して自律飛行をしたり、さらには障害物検知・回避も可能です。
つまり、従来のGPSを使用するドローンでは操縦の難易度が高かった障害物の多い環境や屋内などの非GPS環境下でも、SLAMによりこれまでよりずっと容易かつ安全に飛行できるようになったと言えます。
参考(外部リンク):Skydio公式HP
そしてご存知の通りSLAMや各種センサー、AIなどの最新技術を利用した車の自動運転も進んでいます。
自動運転において足元では、2022年度に向けたレベル4(走行ルートや時間帯など特定条件下での完全自動化)での公共交通サービスのスタートを目指し、法改正を視野に入れた動きが加速しています。
これに向け、各メーカーはよりハイレベルな技術を搭載する車の開発を進める中、日産社は2019年秋にレベル2相応の自動運転技術をスカイラインに搭載し発売。さらに2020年秋にはホンダ社がレベル3の型式指定を取得し、2021年春に発売しています。最近では、米Apple社が2025年の自動運転車の販売を目指すことが報道されるなど、ITなど自転車業界以外からの新規参入が増えることも見込まれます。
また同時に車そのものだけでなく、トヨタ社が車の製造工場にSLAM式AI搬送ロボットを導入するなど、製造現場へのSLAMの導入も進んでいます。
参考(外部リンク):
ARでの活用
ARとは「Augmented Reality」の略。一般的に「拡張現実」と言われ、現実には存在しないバーチャルの視覚情報を、現実世界に重ねて表示する技術です。2016年に世界的ブームを巻き起こしたススマートフォン向け位置情報ゲームアプリ「ポケモン GO」はこれを利用し、スマートフォンの画面を介して目の前の風景にポケモンが現れたかのように見せるものでした。
カメラなどによりリアルタイムで撮影した実写映像に、3次元仮想モデルを重ねて実現します。この技術を活用し、現実の建物や風景と重ねることで空間デザインをより具体的に検討することができるようになったり、エンタメ分野などでの新たな楽しみ方も注目されています。リノベーションなどの計画時のシミュレーションのほか、建築分野などでの様々な活用が期待されています。
ARでは「現実世界に対して重ねる3次元仮想モデルをいかに高い精度で配置できるか」という課題があります。SLAMやセンサーなどを活用することで自分自身の位置や方向を推定することができ、より高い精度での配置を目指す研究が行われています。
参考(外部リンク):
- SLAM技術に基づく空間情報を用いたAR可視化システムの構築とその適用性の検討SLAM技術に基づく破壊シミュレーション結果のAR可視化/J-GLOBAL
- 建築デザイン検討のためのSLAM を用いた屋外型 AR システムの開発/日本建築学会・情報システム技術委員会
まとめ
本記事では、SLAMについて紹介しました。
今後も研究が重ねられ、SLAMそのものの技術の向上や、AIなどほかのテクノロジーとの組み合わせもますます試されていくでしょう。これにより車やドローン以外のもっと私たちの身近なところにも、SLAMは活用されてゆくかもしれません。
ロボット掃除機のような、私たちの生活をより豊かにしてくれるSLAM搭載商品の発売を、今後も期待したいですね。