2017年より国土交通省は「建設生産プロセスの生産性2割向上」と「新3K(給料が良い/休暇がとれる/希望がもてる)」の、魅力ある建設現場を目指す"i-Construction"を推進。2025年までの実現が目標とされ、すでに大手ゼネコンを中心にこれを達成すべくICTの導入が進められています。

導入前の企業においても、その多くが数年以内の導入を検討していることでしょう。

この記事では、そんな"i-Construction"におけるドローンの活用について、これから着手したいという方にもわかりやすく解説します。

この記事は2022.02.15時点の情報です。

i-Constructionでのドローン活用のメリット・デメリット

i-Constructionにおいて、ドローンの活用が推進されるのは「土工」。そんな土木のさまざまな過程で、従来の作業の方法よりも「効率化ができる」というメリットがあります。しかし、「誰でも扱えるか」「何に注意して運用すべきか」など、不安な点もあるでしょう。

ここでは、土工におけるドローンの活用がもたらすメリットとデメリットを整理します。

デメリット

  • 飛行時間が限られている
  • ピンポイントな計測は不可能
  • 地表を隠す障害物がある場合に誤差が生じる
  • 天候によっては実施が不可能
  • 許可承認申請など諸手続きが必要な場合も

このように、ドローンの「飛行する」という特徴に関するものが多くあります。

飛行時間

ほとんどのドローンはバッテリー式で、1式あたりの飛行時間は20~30分前後。広範囲のデータを一度で取得するには十分ではありません。しかしこれは交換用の予備バッテリーを十分したり、有線給電できる環境を用意することで解決する課題です。

障害物

「地表を隠す障害物」には、木や背の高い草が密集する場所などが挙げられます。写真測量で上空から撮影するとこれらが「面」として映り、大きな誤差を生みます。これが許容できない場合は、レーザー測量がおすすめ。ドローンでのレーザー測量の導入費用は1,000万円前後が相場。一時的な利用なら外注することで費用を抑えることもできます。

悪天候

悪天候には、防水性、防塵性、耐風性の高い機材で対応できることも。しかし、レンズに雨粒がつくと使用できないデータとなるため、荒天時の運用は限界があります。

諸手続き

また、ドローンの飛行はほとんどの場合に、国土交通省の許可承認が必要。行政書士に任せることもでき、全国、そして最長1年間分の許可承認をまとめて得ることも可能です。現場によってはこれ以外の手続きが必要な場合もありますが、いずれもドローンに詳しい行政書士へ相談することができます。

メリット

  • 写真の解像度が高い ※解像度は使用するカメラにより異なるが、解像度の高いカメラを搭載可能
  • 効率よく広範囲の撮影が可能
  • 3Dモデル(画像データから点群データを作成すること)作成が容易
  • 人が立ち入れない場所や危険な場所の測量が可能
  • 現場作業を中断する必要がない
  • 施工管理が簡単になる

効率化と安全性

ドローン活用の最大のメリットは、「費用」「人員」「時間」の3つの相対的な効率化。その効果は、すでに多数の現場で実証されています。また危険な場所での作業を減らすことで、安全性も高くなります。

精度

精度は国のお墨つき。国土地理院のレポート「UAVを活用した写真測量の精度検証」では、「撮影条件,解析条件に注意すれば,SfM(※)でも十分精度の良い測量結果を得られ,地図情報レベル2500であれば十分に満たす可能性がある」とされています。

  • SfMソフトウエア:写真測量データから3Dモデルを作成するソフトウェア。SfMはStructure from motionの略で、複数枚の写真から3次元形状を復元する手法の総称を指す。

いくつかのデメリットがあるとはいえ上記のメリットも大きいことから、ドローンの活用は建設現場の新3K「給料が良い」「休暇がとれる」「希望がもてる」の実現にもつながってゆく、と言えるでしょう。

参考(外部リンク)

i-Constructionにおけるドローン活用場面と方法

出典:solUnsplash

i-Constructionでのドローンの活用場面とその基準

上述の通り、i-Constructionで活用が推進される工種は「土工」。「調査、測量、設計」「施工」「検査」の各工程での3次元データによる新基準が、2016年4月より導入されています。ドローンの活用も、いずれの工程においても飛行して取得した「3次元測量データ」を活用したものとなります。

工程ごとの「ドローン活用」の要領・基準

国が定める、各工程におけるドローン活用の要領や基準などの詳細は、以下の資料でそれぞれ確認ができます。

  • いずれも外部リンク
調査、測量、設計

UAVを用いた公共測量マニュアル(案)/国土交通省国土地理院

施工

空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)/国土交通省

  • 「受注者」が行う空中写真測量(UAV)を用いた出来形計測及び出来形管理に適用。
検査

空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理の監督・検査要領(土工編)(案)

  • 空中写真測量(UAV)を用いた出来形管理に係わる「監督・検査業務」に必要な事項を定める。

参考(外部リンク):「新たに導入する15の基準及び積算基準について」/国土交通省

「ドローン(UAV)写真測量」での出来形管理の手順

ドローン写真測量での出来形管理の手順をまとめた図
出来形管理の手順をまとめた図

画像はより多くの活用が想定される、i-Constructionにおけるドローンの写真測量を活用した「出来形管理」の手順です。導入のための機材の準備から撮影当日、データの処理や納品までのおよその流れは画像の通りです。

用意するものや作業手順を細かく書き出しているので、すこし大変そうに見えるでしょう。しかし機材をひと通りそろえて手順を覚えれば、データ取得や処理を確実に効率化できるので、従来の手法より圧倒的に少ない労力と時間で行えるはずです。

詳細は以下の資料に記載されています。

参考(外部リンク):空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)/国土交通省

i-Constructionのための「ドローン(UAV)写真測量」の機材選び

ドローンの導入を考えたとき、まずは機器の手配がひとつのハードルになります。「どの機器が良いのか」「費用はどれくらいか」など不明な点も多いのではないでしょうか。ここでは、そんな機材の中でも、以下に絞って具体的に解説します。

  • ドローン(UAV)とカメラ
  • 写真測量ソフトウェア
  • 点群処理ソフトウェア

ドローン(UAV)とカメラを選ぶ

機材選び、となるとつい「機体」に焦点を当ててしまいますが、「機体」はあくまでも上空から撮影するための”手段”。機体はもちろんのこと、画像データを取得する「カメラ」選びにも気をつけなければなりません。

「公共測量」の場合には、使用できるカメラのスペックが「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」の第24条にまとめられています。公共測量に使用するなら、これを参考にすべきでしょう。

(使用するデジタルカメラの性能等)
第24条 撮影に使用するデジタルカメラの本体は、次の各号の性能及び機能を有することを標準とする。
一 焦点距離、露光時間、絞り、ISO 感度が手動で設定できる。
二 レンズの焦点の距離を調整したり、レンズのブレ等を補正したりする自動処理機能を解除できる。
三 焦点距離や露光時間等の情報が確認できる。
四 十分な記録容量を確保できる。
五 撮像素子サイズ及び記録画素数の情報が確認できる。
2 撮影に使用するデジタルカメラのレンズは、単焦点のものを標準とする。

出典:UAVを用いた公共測量マニュアル(案)/国土交通省国土地理院

以下では上記を基準とし、実際の現場で使用されている代表的な機体とカメラをご紹介します。

写真測量のおすすめ機材 

比較表
機材名称Phantom 4 Pro V2.0Phantom 4 RTKInspire 2/X5SInspire 2/X7Matrice 300 RTK/Zenmuse P1
税込価格207,680円オープン396,110円/252,593円396,110円/356,268円+レンズ158,268円から約90万円〜+カメラは要問合せ
センサー1インチCMOS1インチCMOSMICRO 4/323.5×15.7mm35.9×24mm
有効画素数2,000万画素2,000万画素2,080万画素2,400万画素4,500万画素
視野角84° 、8.8 mm/24mm (35 mm判換算) 、F/2.8~F/11、オートフォーカス (1 m~∞)84° 、8.8 mm/24 mm (24 mm判換算) 、f/2.8~f/11オートフォーカス (1 m~∞)72°(DJI MFT 15mm F/1.7 ASPHの場合)83°(DJI DL-S 16mm F2.8 ND ASPHの場合)84°(DJI DL 24mm F2.8 LS ASPHの場合)
メカニカルシャッター速度1/2000〜1/8秒1/2000〜1/8秒対応なし1/1000~1/8秒1/2000~1秒*F5.6以下の場合
電子シャッター速度1/8000〜1/8秒1/8000~1/8秒1/8000~1/8秒1/8000~1/8秒1/8000~1秒
ISO感度100~12800 (マニュアル)100~12800 (マニュアル)100~25600100~25600100~25600
レンズ交換
i-Constructionのための「ドローン(UAV)写真測量」で利用されている主なドローンとカメラの比較表
Phantom 4 Pro V2.0
出典: Annie SprattUnsplash
  • 税込価格:207,680円

機体とカメラが一体化しているタイプ。写真測量に適した機体としては安価で、ベーシックな機能を備えたエントリーモデルといえます。飛行アプリ「GS Pro」は自動航行が可能で、誰でも手軽に必要な画像データを取得できます。

メーカーHP(外部リンク):DJI JAPAN公式

Phantom 4 RTK
  • 税込価格:オープン

機体とカメラが一体化しているタイプでPhantom 4 Pro V2.0と似ていますが、こちらはRTKを搭載。多くのドローンがGNSSを利用しますが、RTKを活用することで、より高い精度の測位とが可能です。他の小型機よりも高額ですが、性能が良いことから人気。

価格はオープンなので、販売店に問い合わせる必要があります。

メーカーHP(外部リンク):DJI JAPAN公式

Inspire 2
  • 税込価格:396,110円 ※カメラ別売

機体とカメラが分かれているタイプで、カメラの付け替えが可能。映像撮影に多く用いられる機体ですが、高性能なカメラが搭載できるため、測量にも使われます。測量以外でもドローンを活用して高画質な画像や動画を取得したい場合にも、選択肢となるでしょう。

メーカーHP(外部リンク):DJI JAPAN公式

写真測量ソフトウェアと点群処理ソフトウェアを選ぶ

出典:ZanUnsplash

空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)では、それぞれについて以下のように定義されています。

ソフトウェアの種類とできること

写真測量ソフトウェア

撮影した空中写真から空中写真測量及び3次元図化を行い、地形や地物の座標値を算出します。

点群処理ソフトウェア

空中写真測量で算出した地形の3次元座標点群から樹木や草木、建設機械や仮設備等の不要な点を除外。また、整理した3次元座標の点群を、さらに出来形管理基準を満たす点密度に調整したポイントデータ、及び当該点群にTINを配置し、3次元の出来形計測結果を出力します。

「写真測量ソフトウェア」と「点群処理ソフトウェア」の区分け

実態としては、「写真測量用」「点群処理用」と用途がはっきり分かれているソフトウェアばかりではありません。写真測量から点群処理までの一連の作業ができるものや、点群処理に特化したものなど、製品によって出来ることの幅が異なります。

以下では以上を踏まえて、実際に現場で使用されている代表的なソフトウェアを紹介します。

参考(外部リンク):空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)

写真測量のおすすめソフトウェア

比較表
PIX4D MapperMetashape ProfessionalTREND-POINT
価格60万円程~オープン150万円程
用途写真測量写真測量/点群処理点群処理
写真測量のオススメソフトウェア比較表

ご紹介するソフトウェア以外にも、各メーカーから多数展開されています。詳細は以下の資料もご覧ください。

参考(外部リンク):起工測量から検査までの各プロセスに対応するソフトウェア(UAV)/国土交通省 国土技術政策総合研究所 社会資本マネジメント研究センター 社会資本施工高度化研究室

PIX4D Mapper
  • 価格:60万円程~ ※無料版でのトライアル可能

被写体の色や形などから、自動的に写真の撮影位置を判断したり、特徴点の算出が可能。これにより、高精度のオルソモザイク・点群データを作成できます。ニーズに合わせたカスタマイズも可能な、よりプロ仕様なソフトウェアです。

メーカーHP(外部リンク):Pix4D

Metashape Professional
  • 価格:オープン ※無料で30日間のトライアル可能

航空写真から高解像度のDEMデータや、テクスチャー付きのポリゴンモデル、GCPを含む5cm以内の精度を持ったオルソフォト出力が可能な、パワフルなソフトウェアです。

販売店HP(外部リンク):株式会社オーク

TREND-POINT
  • 価格:150万円ほど

豊富なフィルターによる点群データの加工や断面作成、メッシュ土量計算などが可能。i-Constructionの要領に沿った成果物の作成をサポートしてくれます。

販売店HP(外部リンク):福井コンピュータ株式会社

機材を適切に活用し、最大限のパフォーマンスを引き出すには

ここまで、代表的機材例をほんの一部紹介してきました。その上で、i-Constructionに沿ったドローン活用には、適した機材を正しく安全に使用し、業務を効率化したり求める精度を出すこと

そのためには、機材の基本の使用方法だけでなく、よりパフォーマンスを引き出すためのノウハウを学ぶ必要があります。

機材の販売だけでなく導入時の講習を行う販売店や、建設会社等への専門的な講習実績が豊富なスクールなら、機材の選定から成果を出す方法まで、一貫してサポートを行ってくれます。一時的に導入コストがかかるものの、プロから必要な知識や技術を学ぶことは長期的な導入効果を生むはずです。導入を検討する際には、そんなプロたちに相談することをおすすめします。

まとめ

建設現場のコスト削減や効率化が期待できるドローン。これにより、あなたの現場にも、新3K「給料が良い」「休暇がとれる」「希望がもてる」がもたらされ、より良い施工や建設物が生まれるようになると良いですね。

i-Constructionにおけるドローンの詳細は、以下の記事も参考にしてみてください。

参考(外部リンク)