「ドローンによる点検」は何がいい?そのメリットとは
前述の通り昨今すでに国土交通省を中心に、点検業務にドローンをはじめとした新技術の導入を進める流れとなっています。しかし現実としては、まだ「これから」本格的に導入・拡大されていく段階。
「まさに今導入を検討している」という企業様も増えていると予想されますが、いざ導入となると従来の手法と比較した場合のメリット・デメリットや費用などが判断材料となるでしょう。以下ではメリットについて解説しますが、一方のデメリットや課題は以下の記事を参考にしてください。
ドローンでの点検業務 3つのメリット
ここではまず、点検業務を従来の方法からドローンに代替するメリットとして、大きなものを3つご紹介します。
1. 業務の効率化
ドローンを使用する場合、人が建物などに登る必要がありません。そのため、足場を組んだりゴンドラなどの準備も不要に。点検業務に入るまでの準備が少なく済みます。
さらに点検作業そのものも、人や機材の移動が少なく、かつ人より圧倒的に速いドローンの飛行スピードによって迅速に行うことができます。
2. コスト削減
1でお伝えしましたように、事前の準備が大幅に減ることや全体的な工数削減が実現することで、時間だけでなく人件費などの金銭的コストも削減できます。
3. 安全性の向上
現場の天候や足場の状況、高所での作業による転落などの事故リスクの高い場所に人が行かないことで、危険性を回避し安全性が向上します。
建設現場の課題解決に役立てる
メリットでご紹介したように、ドローンを導入することのメリットは主に安全面や効率の面です。
建設業における事故の3割以上は転落。特に高所での作業は危険と隣り合わせです。この点だけで考えても、人が危険にさらされることなく業務を行える技術として、ドローンは今後確実に点検業務の現場で必要とされていくと言えるでしょう。
このほかにも、クレーンを利用しなくとも大型構造物の全景を写真に収めることができるようになったり、赤外線カメラ搭載のドローンでより詳細に熱分布の把握が可能になるなど、点検の対象次第ではドローンにより精度の向上が期待できるなど、さまざまなメリットがあります。
「ドローンによる点検」はどこで、どんな風に役立つの?
ドローンを点検業務に導入することのメリットがざっくりと分かりましたが、導入に向けた検討あたってはより具体的に「どんなシーンで有効な活用が期待できるのか」「費用はどのくらいかかるのか」などが重要です。以下でより詳細にご紹介します。
ドローンによる点検の種類・費用・メリット一覧
下記の表は点検の種類別に、ドローンによる点検を外注をした場合の費用目安と、ドローンを活用することのメリットをまとめています。導入時の検討材料としてご活用ください。
- 費用はあくまで目安となります。対象物の規模や使用機材、求める生活物などにより費用は大きく異なる場合があります。
- 外注せず自社へ導入する方法もあります。
種類 | 外注費 | ドローン活用のメリット |
全般 | ー | 効率化・省力化(作業時間の短縮・コスト削減)、人員不足解消、低コストなためより高頻度な点検が可能、老朽化対策、長寿命化(ストックマネジメント)が容易になる、属人化防止 ※自動飛行が前提 |
プラント(屋外) | ー | 高所作業での事故リスクの排除、作業員立ち入り前のスクリーニングができる |
プラント(屋内) | 35万円前後~ | 普段点検できない場所の点検が可能、作業員立ち入り前のスクリーニングができる |
橋梁 | 120万円~※規模による | 高所作業での事故リスクの排除、点検車・高所作業車などが立ち入れない箇所の点検が可能 |
ダム | 100万円~※規模による | 広範囲を迅速に撮影可能、足場設置・ロープワークなどの準備が不要、高所作業での事故リスクの排除、オルソ・3Dモデル生成などのデータ活用の可能性 |
風力発電 | 4万円前後~/機 | 精度の向上、高所作業での事故リスクの排除 |
鉄塔・送電線 | ー | 高所作業での事故リスクの排除 |
太陽光発電所 | 6万円前後~/1MW | 広範囲を迅速に撮影可能,撮影した画像の活用で点検調査報告書を効率的に作成可能,高所に伴う事故リスクの排除 |
屋根 | 民家6~7万円、工場等30万円前後~※面積による | 高所に伴う事故や屋根破損リスクの排除、足場設置不要、客観的な劣化状況の評価が可能 |
外壁 | 35万円前後~※面積による | 高所に伴う事故リスクの排除、足場設置不要、高層階も正対して撮影できる(地上から撮影する際の撮影角度の課題が解決),地上で撮影できない部分の撮影が可能 |
「点検でのドローン活用」にむけた国の取り組みと規定、法律
国土交通省の取り組みと規定
「社会資本メンテナンス元年」は、何が問題だった?
国土交通省では2013年を「社会資本メンテナンス元年」 と位置付け、インフラ長寿命化計画(行動計画)を定め取り組みを開始。しかしインフラの法定点検の要件(近接目視が原則であること)が厳しく、今となってはドローンなどの新技術の導入が遅れた要因のひとつとも言われています。
当時の「法定点検の要件」の厳しさの一例としては「橋とトンネルに関しての点検の規定」があげられます。その内容は「長さ2m以上の全ての橋とトンネルに対して5年に一度、近接目視による点検を義務化する」というもの。しかし老朽化対策が急務な現状(※)に対し、規定通りの点検の実施には人員と資金の不足という問題があり、点検や修繕の遅れを招いていました。
- 高度経済成長期に集中的に整備された日本のインフラは、道路橋は2023年には39%、2033年には63%が建設後50年以上が経過すると言われています。
参考(外部リンク):社会資本の老朽化の現状と将来/インフラメンテナンス情報 国土交通省
「点検支援技術性能カタログ(案)」で進む、点検へのドローン導入
このような従来の規定が2019年3月、インフラ点検の基礎となる「道路橋定期点検要領」と「道路トンネル定期点検要領」の改定により、部分的ではあるものの点検業務でのドローンを含む新技術の利用が認められるなど、点検方法に関する規定が緩和されることに。
同時に、新技術を利用するための手引きとして 「新技術利用のガイドライン(案)」 が公開。新技術の活用を拡大するため、作業員に代替できる新たな技術の性能基準を設定し、基準を満たした技術は 「点検支援技術性能カタログ(案)」 にまとめられることとなりました。
これによりドローンなどの新技術を活用したい企業が、「点検支援技術性能カタログ(案)」 の掲載情報を参考に、支援技術使用計画を立て業者へ協議することが可能に。点検業務のスマート化が推進されたと言えます。
また、2018年の「未来投資戦略」でも「次世代インフラ・メンテナンス・システムの構築等インフラ管理の高度化」が閣議決定するなど、インフラの点検におけるドローンなどICTの活用も国として取り組んでいくことが示されています。
参考(外部リンク):
国の取り組みを受けて動きはじめた、地方自治体
この改定を受けて、点検業務へのドローンの実用性を判断するため、実証実験に積極的に取り組む地方自治体も出てきています。
千葉県君津市では、2020年3月にドローンを使用した独自の橋梁点検手法「君津モデル」を確立。実証実験の成果とともに、本格運用していくことを報告しています。このほかにも数々の自治体が、ドローンの開発や運用、電力・通信関連の民間企業と提携し、インフラ点検などの分野へのドローンの導入を進めていく動きも見られます。
さらに2021年6月には、経済産業省と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の共同開催で、ドローンの活用を積極的に行う自治体の首長が事例や展望を発信する「全国自治体ドローン首長サミット」も開催。今後はますます、点検業務においてドローンなど新技術の導入が進んでいくでしょう。
参考(外部リンク):ドローンを活用した橋梁点検実証実験の成果報告会を実施!新たな橋梁点検手法「君津モデル」の確立、本格運用へ/君津市
ドローンでの点検にかかわる法律
ドローンを使用する場合には点検対象物の「場所」をもとに、許可承認の取得が必要かどうかを確認し、必要があれば申請をしなければなりません。
たとえば屋根や外壁の点検を必要とする住宅やビルは、人口も多い場所に存在することがほとんど。さらに点検の場合、空撮などとは異なり対象物に接近した飛行を行うことも多くあります。このような場合は、国土交通省への「許可承認の申請」を行う必要があります。
国土交通省のHPでは、申請に必要な書類のひとつの「マニュアル」について、ドローンでのインフラ点検のための申請に使用できる「インフラ点検飛行を目的とした航空局標準マニュアル」を公開しています。これまで申請をしたことのない方でも、こちらを使用することで点検業務に適した内容での申請が容易になりました。
詳しくは以下をご確認ください。
参考(外部リンク):
- 無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール/国土交通省
- “人口集中地区(DID地区)“?ドローン航空法・許可取得方法とは?【徹底解説】/DroneAgent
- 航空局標準マニュアル01(インフラ点検)/国土交通省
- 航空局標準マニュアル02(インフラ点検)/国土交通省
まとめ
法律が整備されることで今後ますますドローンの活用は進み、官民問わず課題解決に欠かせないツールとなっていくことでしょう。
ドローンに関する情報は日々アップデートされており、最近はより幅広い条件下で使用するための法改正に関する情報もたくさんあります。安全なドローン導入のためにも、こまめに確認をし最新の情報を入手するようにしましょう。