近年、ドローンを使ったプラント点検が注目を集めています。 2019年には政府がプラント点検におけるガイドラインを発表しました。そもそもプラント点検にはどんな課題があり、それに対してドローンで行うメリットやできることは、何なのでしょうか。

この記事では、そんなドローンによるプラント点検のいまを解説します。

この記事は2022.01.26時点の情報です。

プラントの3つの種類

出典:Photo by Pedro FartoUnsplash

プラントは一般的に「製造工場」「製造設備」のことを指す言葉です。プラントは以下のように大きく3つに分類されます。

  • 産業プラント: 人間生活に必要不可欠なモノを生産するプラントのことを言います。例えば、食品工場、製薬工場、製鉄工場、セメント工場、発電所などのプラントが挙げられます。
  • 環境プラント: 廃棄物を処理して再利用できる資源にしたり、焼却熱を利用して発電したりするプラントのことを言います。具体的には「浄水場」や「下水処理場」、「廃棄物処理場」などが環境プラントに挙げられます。
  • 化学プラント: 石油や天然ガス、LPGなどの原料から化学製品をつくり出すプラントのことを言います。代表的な化学プラントには「化学工場」「ガス精製工場」「石油精製工場」などがあります。有害で危険な原料、製品を多く扱う為、一歩間違えれば爆発や火災などの大事故に発展する恐れがあります。

本記事では、主に化学プラント点検の現状やドローンの利活用について説明します。

化学プラントとドローンの活用のいま

出典: Patrick HendryUnsplash

化学プラント点検の現状と課題

設備の老朽化とメンテナンスの必要性の高まり

国内の数多くのプラントや工場は高度成長期に作られた施設が多く、老朽化が進行しています。それに伴ってメンテナンスのニーズが増大する一方で、これまで安全安定操業を支えていたベテラン運転員の引退とノウハウの喪失が問題になっています。

2016年の経済産業省のデータによると石油プラントは、2025年には設備の半数以上が稼働年数50年以上経過します。設備の老朽化が進むと、腐食、疲労劣化などによる故障や漏えいが発生する原因となり、事故のリスクが高まります

石油プラントの半数以上が稼働年数50年以上経過する
我が国エチレンプラント設備の稼働年数 出典: 第4次産業革命に対応する日本企業の状況/経済産業省 

人材の不足

石油精製事業所などの産業に限定すると、ベテランが不足しています。30歳代までの人材においては、エンジニアの力量不足が指摘されています。この年齢構成のままでは、プラントの技術、運営知識が継承されない問題が生じます。

ドローンを用いた化学プラント点検のメリット

化学プラントのドローン点検は、すでにお伝えしているような人材不足の解決のほか、点検が容易になることによる点検頻度の上昇など、安全性や効率性向上の面で注目されています。そんなドローン活用のメリットを整理すると以下の通りです。

  • 高所作業の簡易化
  • 作業コストの大幅削減
  • 作業者リスクの低減
  • これまで点検できなかった箇所の点検が可能になる

プラントにおけるドローン活用事例から見る「今、できないこと」

ドローンを使ったプラント点検の活用については、総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省が「プラントにおけるドローン活用事例集」としてまとめています。

ドローンで点検を「実施した箇所」と「実施したい箇所」

画像は国内の石油精製、化学工業(石油化学を含む)等のプラント事業者 のドローン活用状況を把握するため、41社86事業所の石油連盟、石油化学工業協会、 日本化学工業協会の会員企業に行ったアンケートの回答をまとめたものです。

図を見るとフレア設備、配管、タンクの点検はすでに多く実施されています。反面、実施したいと考えているにも関わらずまだ実施されていない箇所も多くあり、今後これらに対応する機材の性能向上などが期待されます。

参考(外部リンク):プラントにおけるドローン活用事例集Ver2.0/石油コンビナート等災害防止3省連絡会議

プラント点検における、ドローン活用の課題

「プラントにおけるドローン活用事例集Ver3.0」では、実際にドローンをプラント分野で活用した結果を受けて、その課題に以下をあげています。

  • 非GPS環境での動作の安定性
  • 高い操縦難易度による操縦士が外部手配となること(内製化が理想)
  • 防爆対策
  • 嗅覚、触覚、聴覚による異常有無の情報の取得が不可
  • 気象条件の影響
  • バッテリー(飛行時間の制約)
  • 規制緩和

非GPS環境での飛行を得意とする、SLAMなどを活用したドローンはここ数年各メーカーが発表しています。これにより操縦難易度は以前より下がってきているものの、まだGPSで測位するドローンが主流であるのが現状です。

飛行時間の問題もここ数年でかなりの改善が見られますが、それでもひとつのバッテリーで飛行できるのは今も数十分ほどです。これらに加え、日々の業務を安定的に行うには、雨風などの気象条件のほか、プラントという特殊な環境に適した機能性や高い安全性も求められています。

現在活用が進んでいない場面においても、これらの課題が解決されることで導入が進んでいくかもしれません。

参考(外部リンク):プラントにおけるドローン活用事例集Ver3.0/石油コンビナート等災害防止3省連絡会議

ふたつの活用シーンで、ドローンができること

出典:Diana MăceşanuUnsplash

プラント点検におけるドローン活用場面は、大きく「屋外点検」と「屋内点検」に分けられます。

屋外点検

タンクや配管の外観、フレアスタックなどの屋外に設置されている設備については、光学ズームカメラや赤外線カメラが搭載されたものが主に使用されます。光学ズームが可能なカメラにより、クラックの有無などの目視点検が遠隔から可能になります。

また、赤外線カメラによる温度異常の調査によって破損発生個所の発見もできます。

屋内点検

タンクや配管、煙突内部の狭小空間では、比較的機体が小さい狭小空間点検用のドローンが使用されます。これにより、人が入れない狭い場所の点検が可能になります。

国の想定する、プラントでの活用シーンと方法

出典:American Public Power AssociationUnsplash

ドローンを活用した運用指針を定めるため、2019年3月29日に総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省が「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」を公表。2020年3月に改訂もされています。このように国が動き始めた「ドローンのプラント点検への活用」は、これからますます本格的に進んでいくものとみられます。

ガイドラインでは、ドローン活用時の状態を下記3つに分類し、状態に応じたドローンの活用の方法が整理されています。

参照(外部リンク) : プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドラインVer2.0/石油コンビナート等災害防止3省連絡会議

ドローン活用時の状態

通常運転時

プラント内において、通常の生産活動が実施されている状態です。爆発性雰囲気を生成する可能性がなく火気の制限がないエリアと爆発性雰囲気を生成する可能性があるエリア近傍や火気の制限があるエリアに分けて、リスク対策が記載されています。

設備開放時

プラント内において、開放状態によりメンテナンスが行われている設備や、遊休設備等において、爆発性雰囲気を生成する可能性がなく、または、生成しないため、火気の使用制限がない状態です。

災害時

プラント内において火災等の事故が発生した場合、または、地震・津波・風水害・周辺地域の火災等の影響によりプラント内において火災等の事故が発生するおそれのある状態です。

活用方法

活用方法では下記のようなことが定められています。

ドローン運用事業者の選定

航空法の規定に基づき、 安全を確保するために必要な体制を満たす事業者を選定すること

操縦者の要件

航空法の規定に従った操縦を行うために必要な技量を習得した操縦者を起用すること

使用する機体の要件

航空法の規定及び電波法の規定による要求事項を満たす機体を使用すること

飛行計画書の作成と提出

以下について明記すること

  • ドローンの飛行目的・計画
  • リスクアセスメント
  • リスク対策
  • 事故対処方法

事前協議等の実施

プラントにおいてドローンを活用する際、飛行計画立案者は、社内関係機関との協議を実施すること

ドローンを活用した点検等の実施

飛行前、飛行中の安全確認を行うこと

飛行記録等の作成と提出

ドローンを活用した場合、航空法の規定に定めのないドローンの活用においても、飛行記録等を作成することが望ましい
 

ガイドラインにはこれ以外にも、航空法などの「関連法令」についても記載があります。実務に利用される場合はガイドラインを詳細まで確認することをおすすめします。

まとめ

プラント点検では、施設の特徴に応じたドローンを使用することによって、これまで点検できなかった設備不具合の発見を容易に行うこともできます。人的事故も防ぐことが可能なことに加え、人手不足の解決にもつながります。


今後もさらなる技術の発展と法整備により、プラント点検におけるドローン活用はさらに活発に、そして近い将来には当たり前のものとなっていくでしょう。今のうちに導入の準備をスタートしてはいかがでしょうか。